12🦋 その9 私の生い立ち・人生 〜自殺企図〜
28歳5月。
私はもう、日々、死にたくて死にたくてたまらなくなっていた。許してほしい、いや許されるはずがない、死ねばいいのに。そんな気持ちがとめどなく溢れていつも怒りに震えて泣いていた。
ある日、おかしくなった頭で、彼にラインで許しを請うた。
「許してほしい、許すって言って!!」
彼はこんなようなことを返してきた。
「今はもう、許すとか待ってるよとかは言わないから、とにかくゆっくり休みな」
彼はゆっくり休むように言っただけなのだが、私には
「お前のことは許さない!」
そう聞こえてしまった…。
理解してもらえないかもしれないけど、そう聞こえたのだ。元の頭がおかしくなってるからだとおもう…。
その返信を見た瞬間、もう死のうと思った。
「死にたい」じゃなくて
「死のう」と思った。
つらい人生だった。
さよなら。
そんなことを送り返したと思う。
そして、家を出た。
ケータイはベッドに置いたまま、風呂もろくに入ってない汚い体のまま、髪もボサボサのまま、着の身着のまま何日も着ている汚い部屋着で、ぼんやりと家を出た。
家を出るとき居間を通らなければ玄関にはいけない。そこで母と祖母に家を出るところを見られていたが、誰も追いかけてはこない。
外は、寒くも暑くもなかった。ただぼんやりと呟いたのは覚えてる。
「これで、…楽になれる」
高いところを歩いて目指した。ちっとも早く歩けない。足が鉛でできてるから。
でも、気持ちが楽だった。もう悩まなくていい。死ねば楽になれる。
死ぬときは飛び降りて死のうと決めていた。死にたいと願うようになってから度々考えていた。
包丁で自分を刺しても加減しちゃえば死ねないし、川に飛び込んでも泳げちゃえば死ねないし、首を吊ってももがいて助かっちゃうかもしれないし、ODはそもそも助かる見込みが高すぎる。
確実に死ぬのは飛び降りだ。
即死できるだろう。
電車に飛び込んでも即死できるだろうけど、電車の轢死体はあまりにも酷いとと聞いていた。一番迷惑な自殺の手段かもしれないな…。などと考えていた。
飛び降りで死んでもかなりの迷惑をかけるわけだが、そんなことは特に考えておらず、とにかく飛び降りがよかった。飛び降りるのは怖くもない。
駅の方に向かって歩いた。
駅の近くにビジネスホテルがある。
それしか思い浮かばなかった。
ちなみに駅までは遠い。普通に歩けても30分はかかる。
踏切を横切らなければ駅まではいけない。
ある道に差し掛かったとき、400m先に踏切が見えた。
ちょうど、踏切が鳴り出した。
「あれに間に合えばすぐに死ねる…」
呆然と、通り過ぎ行く電車を眺めた。
到底、間に合わなかった。何分もかけて踏切に到達した時には静けさだけだった。
踏切の上に立って、線路を眺めた。線路にある電車用の信号は、ずっと赤のままだった。
ただ呆然と立ち尽くしていた。
その時、車が一台通りかかった。
…踏切の真ん中に変な汚い女が立っている。
さそがし不気味であったことだろう(-_-;)
フラフラと、踏切を車に譲った。運転手の女性はチラチラと私を見ながら通り過ぎていった。
夜中の田舎町は本当に暗い。その暗さと真逆に、踏切の明かりは煌煌として明るい。まるで何万人も入るような大舞台でスポットライトを浴びているような気分になった。
自殺しようとしている人間がスポットライトを浴びて、何万人という観客の視線を浴びているような気分になった。
…踏切をあとにした。
再び駅の方に向かって歩いた。
途中マンションを見つけたが、入り口がオートロックで入れなかった。
やっとの思いで駅の近くのビジネスホテルに着いた。自動ドアからフロントが見えた。
入りづらくて立ち尽くしていた。
当たり前だが駅の近くは賑やかだ。車も人も通る。ホテルの向かいにはパチンコ屋があって、入り口の前にボーイが立ってた。じっと見られていることに気がついた。
結局ホテルをあとにした。
またぼんやり歩くと、すぐ近くにホテルよりもずっと高いマンションがあるのが見えた。
そこへ行ったが、なかなか入れない。セキュリティがしっかりしているらしい。そもそも入り口がわからないのだ。
一階、二階は駐車場と商業施設になっている。結局、マンションへの登り方は分からなかった。
そのマンションの隣に、6階建の小さいがビルがあった。外階段があって、登れるようになっていた。
もうこれしかないと思った。
ついに、ついに死ねる。
そう思いながら、鉛を持ち上げて必死に登った。果てしなく階段が続いているようだった。
どこまで階段があるんだろう、もしかしてこのままあの世の世界へ行けるんじゃないか、なんて思うほど長い階段に感じられた。
ついに一番上に着いた。
…屋上は、鍵がかかってた。
バカだ。そりゃそうだ。
屋上には行けなかった。
そうだ、外階段を登ってきたんだ!
階段から下に降りれば…!
そう思って振り返ると、階段には網が張ってあった。ちっとも気づかなかった…。バカだ。
網は糸じゃなくて、柔らかいプラスチックみたいなやつでできてた。押しても引いても破れなかったし、枠を見ても外れそうになかった。
…もう、崩れ落ちた。
こんなに頑張って歩いたのに…
もうここしかなかったのに…
死ねなかった、
死ねなかった…
倒れ込んで、しばらく呆然としていた。
そのうち、死ぬ気が殺がれた。
(死なずに済んだのではない。死ぬ気が殺がれた)
街の喧騒が耳障りになった。
多分それまでは、ずっと、最初から、聞こえてなかった。死ぬことしか考えてなかったらからか…
静かなところに行こうと思った。
また歩き出して、死ねなかった、死ねなかったと、心で何度も呟いていた。
10 〜母〜へ続く